レゴ®シリアスプレイ®で組織のブレークスルーを加速する:遊びを通じた戦略思考とチームビルディング
遊び心で思考を深め、組織にブレークスルーをもたらすレゴ®シリアスプレイ®
現代のビジネス環境は、VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity:変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と称されるほど、予測困難で変化が激しい状況が続いています。このような中で、組織が持続的に成長し、競争力を維持していくためには、従来の固定観念にとらわれない新しい発想や、チーム全体の創造性、そして迅速な問題解決能力が不可欠です。しかし、既存の会議形式や思考プロセスでは、なかなか本質的な議論に至らなかったり、一部の意見に偏りがちになったりする課題に直面している方も少なくないでしょう。
このような課題に対する有効なアプローチとして、近年注目を集めているのが「レゴ®シリアスプレイ®」です。これは単なる遊びではなく、レゴブロックを使って具体的なモデルを作り、それを通して思考を深め、対話を促進し、新たな洞察やブレークスルーを生み出すための、体系化されたメソッドです。この記事では、レゴ®シリアスプレイ®がどのように組織のブレークスルーを加速するのか、その具体的な方法論と実践におけるポイントについて解説いたします。
レゴ®シリアスプレイ®とは何か?なぜ「遊び」がビジネスに有効なのか
レゴ®シリアスプレイ®は、レゴブロックを用いたワークショップ形式のファシリテーションメソッドです。参加者全員が手を動かし、レゴブロックで具体的なモデルを構築しながら、自身の内面にある思考やアイデア、感情を表現し、それをチームメンバーと共有します。これにより、抽象的な概念や複雑な問題も、視覚的・触覚的に捉えることが可能になり、深いレベルでの理解と対話が促進されます。
「なぜビジネスに『遊び』が有効なのか」という疑問を抱かれるかもしれません。その答えは、人間の脳の機能と学習のメカニズムに深く関係しています。
- 手を動かすことによる思考の活性化: 人間は手を動かすことで脳が活性化され、より深く、多角的に思考する能力が高まります。レゴブロックを組み立てる行為は、思考と創造のループを生み出し、普段意識しない潜在的なアイデアを引き出す手助けとなります。
- 心理的安全性の向上: レゴブロックという「遊び」の要素を取り入れることで、会議特有の緊張感が和らぎ、参加者はより自由に意見を表現しやすくなります。これにより、建設的な議論を妨げる恐れのある心理的な障壁が低減され、チーム全体の心理的安全性が向上します。
- 抽象概念の具体化と共有: 戦略やビジョン、課題といった抽象的なテーマは、言葉だけでは認識にずれが生じがちです。レゴブロックでモデル化することで、それらを具体的な形として視覚的に共有でき、チームメンバー間の共通理解を深めることができます。これは、複雑な概念を簡易なモデルに落とし込むことで、より本質的な要素にフォーカスできる「モデリング」の有効性を体現しています。
- メタファーの活用: レゴブロックで構築されたモデルは、現実世界の要素を象徴する「メタファー(隠喩)」として機能します。モデルを通して語られるストーリーや意味は、単なる言葉では伝えきれない深い洞察や感情を共有することを可能にします。
これらの特性により、レゴ®シリアスプレイ®は、チームの創造性を高め、複雑な問題に対する新たな視点を提供し、組織的なブレークスルーを促進する強力なツールとなり得るのです。
レゴ®シリアスプレイ®の核となる原則とプロセス
レゴ®シリアスプレイ®は、その効果を最大限に引き出すために、いくつかの核となる原則と明確なプロセスに基づいています。
核となる原則
- 全員参加 (All Hands On): 参加者全員が等しく発言権を持ち、積極的にブロックを組み、意見を共有します。
- 手を動かす思考 (Thinking with Your Hands): 思考を言葉だけでなく、実際にブロックを組み立てる行為を通して表現します。
- モデルは真実 (The Model is the Truth): 参加者の内面にある思考や感情がブロックのモデルとして具現化されるため、そのモデルは現時点での「真実」として尊重されます。
- ストーリーとメタファー (Stories and Metaphors): モデルに込められたストーリーやメタファーを通じて、より深い意味や洞察を共有します。
基本的なプロセス
レゴ®シリアスプレイ®のワークショップは、通常、認定ファシリテーターによって進行されます。ファシリテーターは、参加者が安全な環境で最大限に能力を発揮できるよう、適切な問いを提示し、プロセスを管理する役割を担います。
- 問いかけ (Questioning): ファシリテーターが、ワークショップの目的と関連する問いを参加者に提示します。この問いは、具体的なビジネス課題や抽象的なコンセプトに関わるものです。
- 構築 (Building): 参加者は、提示された問いに対する自身の考えやアイデアを、レゴブロックを使って3次元のモデルとして構築します。制限時間内で集中して作業を行います。
- 共有 (Sharing): 構築したモデルについて、各参加者がそのモデルに込めた意味やストーリーをチームメンバーに説明します。これにより、個々の視点や解釈が共有されます。
- 内省と振り返り (Reflection): 共有されたモデルとストーリーに基づいて、参加者同士で質問し合い、新たな洞察や共通理解を深めます。これにより、問題の本質が明確になったり、新たな解決策の糸口が見つかったりします。
このサイクルを繰り返すことで、チームは段階的に複雑な課題に対する理解を深め、集合的な知恵を創造していくことが可能になります。
ビジネス・チーム開発における応用例
レゴ®シリアスプレイ®は、多岐にわたるビジネスシーンでその効果を発揮します。
1. 戦略策定とビジョンの共有
企業の経営層や事業部門のリーダーが、将来の戦略やビジョンを策定する際に活用できます。抽象的な言葉で語られがちなビジョンを、具体的なレゴモデルとして表現することで、参加者全員が共通のイメージを抱き、目標達成に向けた一体感を醸成できます。例えば、「5年後の自社の姿」をテーマにモデルを構築し、共有することで、各メンバーの解釈の違いを明確にし、共通認識を構築することが可能です。
2. 新製品・サービス開発におけるアイデア創出
R&D部門や新規事業開発チームが、既存の枠にとらわれない革新的なアイデアを生み出すために有効です。「未来の顧客体験」や「次世代のソリューション」といったテーマでモデルを構築することで、具体的な機能やユーザーインターフェンスだけでなく、感情的な価値や体験全体を多角的に検討できます。これにより、言葉だけでは表現しきれない直感的なアイデアが可視化され、イノベーションにつながるブレークスルーが生まれる可能性が高まります。
3. 組織文化の変革とチームビルディング
チーム内のコミュニケーション課題を解決したり、新しい企業文化を浸透させたりする際にも力を発揮します。「理想のチームとは」「現状の組織の課題」といったテーマでモデルを構築し、共有することで、メンバー間の相互理解を深め、心理的な距離を縮めることができます。レゴブロックを使うことで、普段は口にしにくい本音や、潜在的な不満、期待が表現されやすくなり、建設的な対話を通じてチームの結束力を高めることが可能です。
4. プロジェクトの課題解決とリスク分析
進行中のプロジェクトで発生している具体的な課題や、潜在的なリスクを可視化し、解決策を検討するワークショップとしても有効です。「プロジェクトを妨げているボトルネック」や「成功への道のり」をモデル化することで、問題の根本原因を特定し、多様な視点からの解決策を導き出すことができます。モデルを通じて、リスクの複雑な関係性を直感的に理解し、チーム全体で最適な対処法を検討することが可能になります。
導入における注意点と成功のポイント
レゴ®シリアスプレイ®を組織に導入し、最大限の効果を得るためには、いくつかの重要なポイントがあります。
- 認定ファシリテーターの起用: レゴ®シリアスプレイ®は、ただレゴブロックで遊ぶだけではありません。複雑な問いを適切に設定し、参加者の対話を促進し、深い洞察を引き出すには、その哲学と手法を熟知した認定ファシリテーターの存在が不可欠です。内部で育成するか、外部の専門家に依頼することを検討しましょう。
- 目的の明確化: ワークショップを実施する前に、何を達成したいのか、具体的な目的を明確に設定することが重要です。目的が曖昧では、効果的な問いを設定できず、表面的な議論に終わってしまう可能性があります。
- 心理的安全性の確保: 参加者が安心して自身のアイデアや感情を表現できるような環境づくりが成功の鍵です。ファシリテーターは、批判ではなく傾聴を促し、多様な意見を尊重する雰囲気を作り出すことに注力すべきです。
- 物理的な環境の整備: 参加者が自由にブロックを操作し、モデルを共有できる十分なスペースと、集中を妨げない静かな環境を用意することも重要です。
まとめ:遊び心から生まれる思考の深化とブレークスルー
レゴ®シリアスプレイ®は、単なる遊びやゲームではありません。それは、遊び心という人間が本来持つ創造性を最大限に引き出し、複雑なビジネス課題や組織の壁を乗り越え、真のブレークスルーを生み出すためのパワフルな思考ツールです。手を動かし、視覚的に思考を共有することで、言葉だけでは到達し得なかった深い洞察や、チーム全体での共通理解が生まれます。
貴社のチームが、創造性の停滞、問題解決の膠着、あるいはメンバー間の認識のずれに課題を感じているのであれば、レゴ®シリアスプレイ®の導入を検討してみてはいかがでしょうか。遊びの力で思考を深め、組織に新たな可能性をもたらすこのユニークなアプローチが、貴社のブレークスルーを加速させる一助となることを願っています。